ゆううつのリズム

「あと二週間の辛抱だよ!」

彼女があまりに威勢良くそう言ったので、私はなんとなく笑って相槌を打った。

「武道館での晴れ姿、楽しみだね!」

そう、T大学の入学式は日本武道館で行われます。入学生はスーツを身に纏い、自らの努力を実感するでしょう。肝心の私はというと、反学歴主義的な数篇の詩をしたためては「下らない」と破り棄てる日々。私は「T大受験生」という肩書きを春から背負っていながら、明らかな自分の学力の限界を感じている、そんな中途半端者だったのです。「今頑張らずにいつ頑張るんだ!」「T大に行ったら合コンに連れてってやる」「いつやるか?今でしょ!」といった言葉は全て私には響かず、同様に冒頭の台詞についても(この発言はフィクションです)勿論馬耳東風です。

 そんな生活も初めのうちは良かった。尽きない性欲に身を任せ、学業への意欲を失えばその都度アダルトサイトへ飛んでいき*1自慰に耽っていれば幸せでいられたのです。しかし、意外なことに性欲も尽きるものだったのです。そう、勉強意欲はもとより、食欲・性欲・睡眠欲が皆逝った。仕方がないので、私は世界史資料集のオリエントのページ*2を広げながら人生やらなんやらの諸問題について考えることにしました。

Ⅰ.学歴について

 これは私にとっては大きな問題です。なんせ中高時代は所謂名門校*3に通っていたので、果たして高学歴を手にしないということがどのようなことであるのか、少しも分からないのです(想像力の欠如が原因とも)。私はあまりの恐怖に、忌み嫌っていたゴミ袋*4の中を覗いてみました。そこには、「最高学府T大は神」「腐ってもT大」「S大(私の後期出願校)はゴミ」「S大はFラン」といった生ゴミ*5が。私はこれらに反論するため、T大の汚点を探してみることにしました。10個程度探すと、私は次第に落ち着いてきました。なんだか、自慰直後みたいな気分です。とりあえず幸せになれたので良かったです。

 

Ⅱ.私の生、私の死について

 これは私にとっては大きな問題です。およそ18年前に私がK県Y市で生まれたのは紛れもない事実ですが、これこそ私が抱えざるを得なくなった問題なのです。物心ついた頃から私は何故だか学習塾に通っており、結果としてK高校に入学することになってしまった。これが私の最大の過ちでした(この決断が私自身の意思であるという前提の下では)。当時12歳だった私が、それまでの人生の半分の時間をK高校で過ごす…今考えれば地獄、悪夢、そんな言葉で表されるでしょう。私は劣等感という視覚不可の怪物に喰われて殺され、またこれからも殺されることは明らかでしょう。私の死は過去、現在、そして未来なのです。

 

Ⅲ.私の2017年について

 これは私にとっては大きな問題です。いくつかの場合が考えられます。

1.T大生になる

 3月10日にT大から合格通知をいただいた場合、私はT大生になる権利を得ます。私は泣いて喜ぶかもしれません。私は晴れて学歴主義者になるかもしれません。私は今現在の苦悩をみんな忘れてしまうかもしれません。但し、この確率は限りなく低く、ビル・ゲイツが自己破産するよりあり得ない話だと言われています。

2.S大生になる

 T大から不合格通知をいただいた場合、後期試験を通じS大へ進学する、というパターンです。これが現実的ですが、両親の意向によっては入学金を支払わない可能性があるので、何とも言えません。

3.浪人してT大を目指す

 これも十分考えられます。しかし私としては約一年間続けてきた受験生活に何よりも苦痛を感じたので、「もう一年やるのはちょっと…」という気持ちから、出来れば避けたいところです。

4.浪人して地方国公立大を目指す

 先程、親からイキナリ=イラナイコ宣言*6を承ったために急浮上した選択肢です。「3.浪人してT大を目指す」よりも現実的であり、親子双方の利害が一致することから、妥協案として有力です。

5.受験勉強そのものを放棄する

 「4.浪人して地方国公立大を目指す」さえも苦痛となった場合に考えられる選択肢です。とはいえ、貧弱な体でぬるま湯に浸かってきた18の若造が大学を経ずに社会へ飛び出しては、赤信号もビックリかもしれません。

6.物体として存在することをやめる

 可能性がないわけではありませんが、出来れば避けたいところです。

 

 劣等感が自己嫌悪を生み、自己嫌悪が私を殺す。私は生を取り戻すためにTwitterで承認欲求を満たそうとしました。その手段として、私は自虐し、自虐し、自虐しました。しかし、自分を虐げて得られる幸せなどやはり一時的なものに過ぎず、むしろ私が生を取り戻そうとしてとったその行為は、確実に私を虚しい事実に立ち帰らせ、胸を打ち砕きました。こうして自己嫌悪の渦に飲まれ自らを殺し、自らに殺される一方で私はあたかもゾンビのように甦ってきました。これは私の怠惰と開き直りの歴史に他なりません。しかし、怠惰を続けながらも遂に開き直ることが出来なくなった時。その時、私に残された道はただ一つしかないのでしょう。

*1:私は既に18度目の誕生日を迎えているので何の問題もない

*2:退屈であることの比喩

*3:と言われているが、自称だという批判も

*4:正式にはYahoo!知恵袋

*5:回答

*6:ご注文はうさぎですか?』第一話参照